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四畳半神話大系を見て

最近、ASIAN KUNG-FU GENERATIONコピーバンドで軽音サークルのライブに出演し演奏した。そのメンバーの一人が、近いうちに中村佑介展に行ってくるらしい。

アジカン 中村佑介 この二つから、少し昔に気になっていた「四畳半神話大系」というアニメのことを思い出した。

このアニメがかなり良かったので、ネタバレをしない程度に感想を書き留めておく。

 

 

このアニメは森見登美彦さんが書いた小説が原作となっている。

主人公である京都大学三回生の「私」が、どのような大学生活を送るかを描く物語...

なのだが、各話ごとに「私」が最初に入ったサークルが違うという特徴がある。どの回もたいていろくでもない大学生活を送り、「もしも最初に選んだサークルが違ったなら...」と締めくくられ一話で完結する。

いうなれば、どの話も「最初に入ったサークルがここだったら」のifの話を描いているともいえるだろう。

 

 

このアニメでまずよかった点は、小説が原作であるがゆえの台詞、描写の良さである。

 

化物語の良さがわかる人ならこれはよく理解できるかもしれない。

小説は文字を読んで楽しむ物語だ。ほんの少しの挿絵と、作者が細やかに著した情景を想像し、ウィットに富んだ登場人物のセリフを楽しむのが醍醐味である。

 

このアニメはその小説の良さをうまく落とし込んでいるといえる。

声優さんの手により、登場人物の決して短くない台詞がするすると耳に入ってくるのが心地いい。まくしたてるような、それでいて聞きやすく演じている声優陣は本当にすごい感じた。

そして情景の描写は時に直感的、時にリアル、時に暗喩的で、小説を読んでいくたびに変化していく頭の中をのぞいているようで飽きなかった。

 

 

もう一つの感服した点は、ifの話を繰り返すという世界観である。

 

同じ場面を繰り返す系列にタイムリープモノやなどがあるが、この作品は主人公が自分からタイムリープをするという物語ではなく、あくまで一つの可能性を何話も見ているという点で異なる。

そして、各話の進み方、結末が似通ったものなのも面白い。

 

大筋は異なる場合もあるが、おんぼろの四畳半の下宿に住む「私」はどのサークルに入っても、異様な人脈を持ち人の不幸が好きな「小津」と悪友になり、理知的な工学部の女性「明石さん」と知り合う。

小津が慕う「樋口師匠」はどの話でも「私」と同じ下宿に住んでおり、小津とかかわりを持つ「羽貫さん」、「城ケ崎先輩」とも何かしらの接点を持つ。

そう。どの話のなかでも。

 

アニメは「私」の主観でしか書かれていないが、順にアニメを見進めていくと見えていなかった全容が見えてくる。「私」の最初の選択がどんなものであろうとも、様々なサークルに所属している「小津」とは必ず知り合うというのがミソであると思う。

 

この二人は、テニスサークルでカップルたちに花火をぶっ放したり、映画サークルで「城ケ崎先輩」の悪評を詰め込んだ映画を作ったりと色々するのだが、各話の所属サークルに「私」がいるいないにかかわらず、小津は同じことをしているのが徐々にわかってくる。「私」には見えていないだけで、どの話でも同じ出来事が裏ですべて起こっているのだ。

 

残酷かもしれないが、個人の一つの選択はそこまで大きな影響力を持っていない という風にもとれるし、自分の場所がどこであるかより自分がその場所でどれだけ楽しめるかが大事 という風にもとれる。どっちにしろ「私」は、選択を間違えていなかったらバラ色の大学生活を手に入れられたかもしれない...と毎回嘆いているので、皮肉なものである。

 

 

自分たちが考える無数の可能性の中には、必ず自分と悪友とあの人と、四畳半の自分の部屋があるというこの世界観は、「四畳半神話大系」というタイトルにぴったりだと感じた。

だらっと続く変わり映えのしない大学生活の中では、ほかの可能性をうらやんでしまうかもしれないが、かけがえのないものが自分の中にもきっとあると気づかせてくれるいい物語だったと感じた。

「私」がうらやむ可能性の先をぜひ皆さんにも見てほしい。

 

 

 

ちなみに、この作品の英訳名は「the tatami galaxy」である。最後まで見た人にとっては脱帽する英訳だろう。